遺言執行者とは

相続のとき、遺言執行者が選任されることがあります。遺言執行者は遺言で指定されることもあれば、家庭裁判所で選任されることもあります。遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために、必要な手続きを行う人の事です。遺言が実行されるとき、遺言者は既に亡くなっていますので、遺言執行者は、遺言者の代わりに遺言の内容を実現していくのです。

遺言執行者が必要な場合

遺言執行者は、必ず必要なものではありませんが、以下の場合では、必ず選任する必要があります。

  • 遺言で子の認知がされた場合
  • 遺言で推定相続人が廃除された場合
  • 遺言で廃除の取り消しがされた場合
  • 相続人が不動産の所有権移転に協力しない場合

遺言執行者の資格

遺言執行者になれない人は、未成年者と破産者と定められているのみです。成年被後見人であっても、実務ができるかどうかは別問題ですが、なることができます。また、自然人のみならず、法人もなることができるとされています。相続人や受遺者が遺言執行人になり得るかについては、これも可能であるとされています。ただし、利害関係が衝突しそうな場合は、慎重に選任する必要があると思われます。

遺言執行者の選任

遺言で指定される場合

遺言者は、遺言で1人又は複数の遺言執行人者を指定することができます。その場合、必ず法律に則った遺言書で指定されることが必要です。メモ書きや口頭では指定できません。遺言で指定する場合は、指定した遺言執行人にもしものことがあった場合を想定し、複数の遺言執行者の指定をすることをお勧めします。また、遺言時には未成年であっても、遺言執行時に成年に達していれば、問題ありません。逆に、遺言時には問題なくても、遺言執行時に破産宣告を受けていれば、資格なしとされます。遺言執行者は、その就任を拒否することもできるので、遺言で指定する場合は、事前に了承を得ておいた方がいいと思われます。

家庭裁判所により選任される場合

上記の遺言執行者が必要な場合に、遺言で遺言執行者が指定されていなかった場合や、指定された遺言者が就任を拒否した場合は、相続人・受遺者・遺言者の債権者等の申し立てにより、家庭裁判所が遺言執行者を選任します。また、本来必要ない場合でも、相続の円滑化を図るために、相続人が申し立てて選任してもらうことも可能です。

遺言執行者の役割

遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、遺言に必要な一切の行為をする権利義務を有します。遺言者の意思と相続人の利益が対立する場面では、あくまでも遺言者の意思に従って、職務を行います。また、遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生じ、相続人は遺言執行者の遺言の執行を妨げることはできません。しかし、遺言執行者は相続人と対立するものではなく、遺言者の意思を実現するために、相続人と協力して職務にあたるべきです。遺言執行者の業務は主に以下のようなものです。

  • 相続財産の調査
  • 財産目録の作成
  • 預貯金の解約や名義変更
  • 不動産の売却や名義変更
  • 売却する財産の換価手続き
  • 有価証券等の名義変更

これらの手続きは、遺言執行者がいれば単独でできますが、いなければ相続人全員の承諾書が必要になったりと大変な手続きになります。また、金融機関等によっては、遺言執行者が解約手続きをしても、相続人全員の承認を求めるところもあるので、都度確認が必要です。

遺言執行者の義務

遺言執行者には、上記のように排他的な強い権限が与えられていますが、遺言者の意に反した勝手な取り扱いをしないよう、様々な義務が課せられています。

善管注意義務

善管注意義務とは、善良なる管理者の注意をする義務ということで、財産の管理や職務の執行は、誠実に行わなければなりません。

財産目録作成義務

遺言執行者は財産目録を作成して、すべての相続人に交付しなければなりません。

報告義務

遺言執行者は、相続人や受遺者に求められたときは、現在の状況を報告しなければなりません。また、遺言執行が完了したときも、遅滞なく報告しなければなりません。

受取物等の引き渡し義務

遺言執行者は、遺言を執行するにあたって受け取った財産は、相続人や受遺者に引き渡さなければなりません。

補償義務

遺言執行者が、相続人に引き渡すべき財産を、自分のために使ったとき等や、そのために損害が生じてしまったときは、補償をしなければなりません。

遺言執行者の復任

遺言執行者は、遺言者との信頼関係によって選任される場合が多く、遺言執行者が別の人に任務を委任することは、従来制限されてきましたが、民法改正により、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができるようになりました。ただし、遺言者がその遺言で格段の意思表示をしたときは(復任は認めない等)、その意思に従うことになります。

遺言執行者の辞任

遺言執行者は、病気などの正当な理由があるとき場合、家庭裁判所の許可を得て、遺言執行者を辞任することができます。自分の意思だけでは辞任ができず、①正当な理由、②裁判所の許可が必要、というところがポイントになります。途中で辞任することになりますので、遺言執行に支障が無いよう、連絡・引継ぎを行うことが重要です。なお、途中での辞任ではなく、最初の任命を引き受けないというときは、特に理由もなく断ることは可能です。

遺言執行者の解任

遺言執行者が任務を怠っている等の場合、利害関係人は家庭裁判所に対し、遺言執行者の解任請求を行うことができます。なお、家庭裁判所は、請求なしに職権で解任することはできません。

遺言執行者の報酬

遺言執行者の報酬は、遺言でその金額が定められている場合はそれに従い、遺言で定められていない場合は、家庭裁判所に申し立てを行い、決定してもらうことになります。遺言で無報酬とすることもできますが、遺言執行者に指名された者は、断ることもできます。相続人が遺言執行者に指名された場合は、無報酬であることはあります。

遺言執行者にふさわしい人は

遺言執行者に誰を選べばよいのかというのは、難しい問題です。相続人の中で、一番多くの相続分を受ける人を指定するのがいいという意見をよく聞きますが、利害の対立しがちな相続人の間では難しいと思います。また、復任できるとはいえ、相続人の手に余る業務内容だと思います。一番いいのは、遺言の作成に立ち会った法律家だと思われます。遺言をしたときの状況や、本人の意思を直接確認していて、遺言者の意思に沿った内容で遺産分割ができ、実務にも支障がないと思われます。遺言書の作成時には、遺言執行人には複数の人を指定し、その中に遺言作成に立ち会った法律家を入れておくことをお勧めします。