意思尊重効果
自分の財産をどう処分したいか、誰に何を相続させたいかということは、遺言でもできるように思われます。しかし、自分の財産を息子に相続させ、さらにその次には孫に相続させたいといった、二次的三次的に承継先を指定するといったことは、遺言ではできません。例えば、自宅が代々受け継いできた歴史的な建造物であるといったとき、このままでは二次先三次先で共有関係になってしまい、管理に不安があるという場面で、家族信託は、承継先を次代より先までも指定することができます。この効果は遺言ではできないメリットです。
≪例≫
Aさん(75歳)の自宅は先祖代々受け継いできた文化的価値の高い建物である。Aさんの財産は、その自宅不動産(土地建物評価額7,000万円)、預貯金1,000万円である。Aさんの家族関係は少々複雑で、現在は後妻Bと共に生活しているが、前妻Cとの間にもうけた実子Dがいる。また、後妻Bにも前夫との間の子Eがいる。
Aさんの家族関係
Aさんは、自宅の土地建物は、ゆくゆくは実子Dに受け継いでもらいたいが、自分が亡くなった後も、後妻Bには引き続き住んでもらいたい。このまま法定相続通りに分割すると、自宅不動産は後妻Bと実子Dとの1/2ずつになるが、その次の代では後妻Bの分はEに相続権が発生し、実子Dへ全て承継させることはできなくなってしまう。遺言で土地建物を実子Dへ全て相続させても、後妻Bが遺留分侵害請求をすれば、1/4は後妻Bに相続させざるを得ない。その分を換価する十分な預貯金はない。
家族信託を使って、どう解決できるだろうか。
委託者(Aさん) 受託者(実子D)
第一受益者(Aさん)
第二受益者(後妻Bと実子D)
第三受益者(実子D)
信託財産(Aさん自宅不動産、預貯金1,000万円)
信託内容(自宅不動産が共用にならないよう、最終的には実子Dが全て引き継ぐ)
【第一段階】
Aさん(第一受益者)が死亡するまでは、実子D(受託者)はAさんに土地建物を使用させる。
【第二段階】
Aさんが亡くなった後、後妻Bと実子Dが第二受益者となり、受託者実子Dは後妻Bに土地建物を使用させる。実子Dは受託者と受益者を兼ねる。
【第三段階】
後妻Bが亡くなった後、実子Dが第三受益人となり、当該土地建物の全ての権利を取得する。
【注意点】
上記のケースでは、後妻Bが亡くなったとき、Eに相続権が発生し、実子Dが全ての権利を引き継いでしまうと、遺留分侵害請求権が発生してしまうのではないかと思われます。しかし家族信託では、実子Dは先順位受益者の後妻Bから受益権を承継するのではなく、信託契約により、委託者Aさんから直接に受益権を取得したと考えます。このため、この土地建物については、Eに相続権は発生しないことになります。
家族信託では、このように被相続人(委託者)の意思を尊重し、2代3代先までの相続も決めることができます。
受益権の移動